・・・・・その1・・・・・  
僕は、世界のいろいろな国に行ったのですが、「もう一度行きたいと国は?」と聞かれたら、「キューバ」と答えます。キューバへの旅は2006年と、かなり前に行ったのですが、面白い経験をしたのでエッセイとしてまとめることにしました。

なぜ、キューバだったかと言えば、ある出来事で、偶然、パナマ駐在の商社マンと知り合いになり、思いがけずに、キューバに行くことになったのです。この商社マンとはこの旅が縁で今でも仲良く付き合っています。
キューバへは、パナマシティからコパエアラインで行ったのですが、商社マンのマイレージの特権でビジネスクラスの専用ラウンジが使えました。このラウンジの受付には、ラテン系の胸の部分を広く開けた、ちょっと上からみれば、中が丸見えの感じの美人がいたのです。これが、キューバ珍道中の旅の始まりでした。

ラウンジでの2杯のビールが効いたのか、僕は、良い気分になり寝ていたようです。
「Coffee or Tea」
のスティワーデスの言葉で目が覚めました。

Coffeeを飲みながら外を見ていると、右前方の雲の切れ間からうっすらと島影が見えました。その島影がキューバでした。コパ438便は大きく左旋回し海岸線に沿って高度を下げ、やがて右旋回しながら内陸部に進入していきました。窓からは見えるキューバの風景は驚きものでした。

-町並みがない。ビルがない。ビルどころか建物が、家がほとんどない。細い道路はあるのですが、車も人もほとんどいない-

僕は、この「ないない尽くし」は、キューバの貧しさの表れではないかと思いました。程なくして、コパ438便はハバナホセマルティン国際空港に着陸しました。コンクリートで舗装された滑走路は、所々にひび割れがあり、その割れ目から雑草が伸びているのです。国際空港と言えば、海外からの客を迎える国の正面玄関であるのに、その正面玄関への通路がひび割れており、いたるところに雑草が生えているのです。

-滑走路のひび割れと雑草を見て「キューバは貧しい」-
と、僕は改めて実感したのです。

入国審査が終了し、空港の両替所で100ドルをキューバペソに交換したのですが、自動的に10%の手数料が引かれ、実質的には90$交換した形になっていました。つまり、10$は政府の懐に入るシステムなのです。僕は、友人の商社マンにその驚きを伝えました。

「稲田さん、そんなことで驚いちゃいけません。キューバには、我々が両替した外国人用のペソ(2021年1月1日をもって廃止)の他に、ドルとは交換できないキューバ人用のペソがあるんです」
「え、外国人が使うペソとキューバ人が使うペソは違うのですか?」
「そうです。つい最近までは、キューバ国内でもドルが使えたのですが、キューバの国民は、安全なドルを溜め込んで流通させないものだから、キューバ政府はドルが集まらなくて困ってしまったのです。そこで、政府は、国民が溜め込んだドルを吐き出させるためにドル流通禁止措置を発効し、ドルとペソとの交換を強制的に実施したのです。でも、この交換したペソはドルとは交換できない仕組みになっているのです」

-僕はこの話を聞いた時に、一瞬、唖然となると同時に、本当に地球の裏側に来てしまったと実感したのです-
 
 
この感覚は、ホテルへ向かうタクシーの中から見た町並みによってさらに強まりました。車が少ない、いや少ないと言うだけではない。走っている車さえが、いずれもボロボロの1950年、60年代のアメ車なのです。建物はあってもその多くは壊れて放置されたままか、修理中、それもいつ修理が再開されるのか判らない状態なのです。建物そのものも近代的なビルではなく、すべて、古いヨーロッパ風なのです。午後3時を過ぎているのに歩いている人がほとんどいない、まるで、100年前のヨーロッパの貧しい国にタイムスリップしたかのような感じなのです。
 
 
-この驚きは、空港からホテルに向かう途中の景色で、さらに、心の中に入ってきたのです-

タクシーは寂れた町並みを抜け、広い邸宅街の道路にでました。建物の前には国旗が掲げられており、各国の大使館が集まっている地域に入ったようです。タクシーは大使館が立ち並ぶ通りを右折し、さらに左折し、大きなビルの前に迂回するように滑りこみました。

今夜のホテル「メリア・ハバナ」に到着したのです。カウンターにはフロント係らしい女性がいるのですが、「ニコリ」ともしません。ホテルのフロント係りと言えば、サービス業の代表選手です、にもかかわらず、キューバの5つ星ホテルのフロント係りは「ニコリ」ともしないのです。
メリアハバナ(2755)
この笑顔の無さと、ホテルに向かう途中で目撃した寂れた町並みはしっかりと重なるのですが、同時に、タクシーの中から目撃したあちこちの空き地で野球をしている子供達の歓声と笑顔は重ならず、このギャップの大きさが、僕を不安定な気持ちにさせたのです。

ホテルマンに部屋に案内されることもなく、自分でエレベーターに乗り、8Fのツインの部屋に荷物を置きました。すばらしい部屋でした。

窓際に置かれたソファーテーブルには、花と果物が置かれ客人をもてなしていました。窓の外にはハバナ湾が広がり、ベランダの下にはトロピカル風の三角屋根の小屋と椰子の木に囲まれたプールが見えました。

しかし、テーブルの上の果物は腐りかけており、プールで泳いでいる人間は一人もいませんでした。
<キューバは落差が大きいと妙に納得した気持ちを今でも明確に覚えています>
 
 
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