『優しさの行方』  
 
 
  「愛とは奪うものなのか、与えるものなのか、それとも????」
―主人公真一の介護を通し、愛とは、優しさとは何なのかを語りかけるー

真一は36歳の10年前に妻を癌でなくし、2年前の9月に母が心不全で急死した時から85歳の父を介護することになった。真一は大手商社の課長を勤めていたが、介護度が3に進んだ父親の世話と仕事を抱え『鬱』一歩手前の生活を送っていた。サキから連絡がきたのはそんな状態が続いた日だった。サキは真一の白内障の手術をしてくれた腕の良い眼科医だった。
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「真一の左手はサキの肩を抱き、右手はサキの右膝の上でサキの右手をしっかり握っていた。真一はウイスキーを口に含みサキの唇に自分の唇を重ね、ウィスキーをサキの口に流しこんだ」
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「真一さん、結婚しない?」
唐突にサキが呟いた。
真一もサキも独身だから2人の結婚には表面的には何の問題もなく、真一もサキとの結婚を本気で考えたことはあった。
「サキの言うことは、わかった。ありがたく思う。でも、親父の介護を抱えたままでは、結婚できない。いやしないほうが良いと思う」
真一は答えた。

<2人の間には小さな溝が生まれた>

介護とは、仕事とは、そして、本当の優しさとは何なのか?
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真一は、わずか一年間で、外的な美しさに加え人間としてより魅力的なっていくサキに素直に乾杯したかった。
「Can I have a Dalat Wine?]
とサキの声がした。
 
 
 
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